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SKY~なんちゅのPFCSブログ~

なんちゅのPFCS用のブログです。かなりフリーダムです。

ココア

精霊の青年は大きな帽子をかぶり、現地で服を調達し(しっかりとギャングとして稼いだ金で購入した)、王を待っていた。
この大きな帽子は鬼用の帽子で、横に二本ある角を隠すために設計されている。
もっとも青年の角は常人ではない程大きな角を持っているので、少し角がはみ出ている。
服は、ジャケット。普段から彼はジャケットを着ているが、そのジャケットはボロボロであった。

…青年は人を待っていた。
手紙に『ショコラ王とアンティノメル警察としてあの喫茶店で話がある』と嘘を書き込んでいた。
名義は「Dante Alighieri(ダンテ・アリギエーリ)」。偽名だ。
警察と嘘をつかないと、ショコラはやって来ないだろう。
そして待ち合わせから数時間遅れ、ショコラはやって来た。
変装している青年を見て、一言ショコラは呟いた。
「ダンテさん!」


「よう、ショコラ」
ダンテはいつもと違う口調でショコラに話しかける。
ダンテは…ショコラの前でだけなら、素を出せる。そんな気がしてショコラを呼び出したのだ。

前に彼と行った喫茶店。冷たくて、美味しかったアイスココア。
…彼を殺そうと騙した挙句、傷つけても治った背中の傷と、霜の着いた自分の爪。

その思い出がある。ダンテは彼なら…少しだけ弱音を吐ける。
「ダンテさん?いつもらしくないですよ?」
「いや…俺はお前の前でならタメ口でも、いい気がして…」
ダンテはいつもの女口調ではなく、本来の口調で、タメ口でショコラに言葉を紡ぐ。
彼は安心している。前に飲んだアイスココアのあの味が忘れられない。
ショコラは、ニコニコと笑っている。名前見た瞬間あなただと分かりましたよ!と、笑顔で答えられた。
ヴィランと国王。分かり合える筈のない二人はここで出会った。


「……俺は何をすればいい?俺はお前が殺そうとしても…死ねない。」
ダンテは真剣な表情で喫茶店の前へと辿り着いた。
「…死ねない?」
ショコラはその言葉を聞いてもなお笑顔で居たが。
「死ねないなんて素敵じゃないですか!僕は凄いと思いますよ!」
ショコラは明るく話しかける。
「ささ、悩みがあるなら僕に言ってください!ドレスタニアは貴方を歓迎してますよ!」
無理やりと喫茶店に入れられるダンテ。背中を押され、入口の扉は開かれる。

ショコラの冷たい手を感じ取って、少し違和感を感じた。
これは、爪で攻撃した時の、あの感覚。
…痛みを感じない人間を、切り裂いた時のあの冷たさ。


カラカラ、と入店の音が鳴る。
ショコラ王が来ると予約を入れられたため、店内は貸切である。
ショコラとダンテは、ふかふかの一人用ソファが二つ向かいにあるカフェテーブルに座った。
メニューがおいてある。ショコラはアイスココアを頼んだ。
「ダンテさんは何を頼むんですか?」
ワクワク、としているように言われ、ダンテは少し困った。
アイスティーや、コーヒーもいい。カフェラテにして飲むのもいいだろう。
ガーナチョコを溶かしたホットチョコレートもある。ダンテはそれを頼もうとしたが
脳裏にある思い出が浮かんだ。
…ショコラと共にアイスココアを飲んだ思い出だ。
「…アイスココア」ダンテは、あの時初めて心を許した時に注文したアイスココアを頼んだ。

実はあの後、ココアを作っていた事があった。
だがどうもアンティノメルのココアは、違う。
ドレスタニアの味ではないのだ。ドレスタニアのココアが恋しい。
ドレスタニア産のインスタントココアが一番ダンテの口と心に残った。
だが、やはり本場で飲んだほうがいい。


「…ショコラ・プラリネ・ドレスタニア。」
「ショコラでいいですよ!」
ダンテはココアを待っている間に、ショコラに話しかける。少し顔が寂しそうだ。
「俺はいつか殺される運命だ。世界の裏側に…そう書いてあった…」

世界の裏側…それはダンテが見れるもの。
脳裏にノートブックとペンが出てきて、そのノートブックをめくることが出来、ノートブックの最後には『ダンテはソラに倒されて死ぬ』と書いてある。
定められた運命。ダンテはこの裏側を見て、狂ってしまった。
罰として身体が徐々に龍になっていく呪いをかけられている。その上その龍に意識がどんどん支配されていき、いつしかダンテは龍になる…これはダンテには解消できない呪いだ。

 

「世界の裏側がなんだか知りませんが、僕はそんなの関係なしに生きればいいと思いますよ」

ショコラが言葉を続ける。顔は笑顔だ。だが、しかし、目は真剣そのもの。

「僕は貴方とお話できてるじゃないですか。それは裏側とやらに書かれてた運命なのですか?」

 

そこまで話した後、ショコラは笑顔に戻り話しかける。
「最後が決まっているなら、最後まで生きればいいじゃないですか!」

ダンテは今までに見たことのない、人間の笑顔にびっくりとしている。
人間はこうも明るくなれるのか。人間はもちろん、精霊ですらその笑顔は見たことがない。
…ダンテは心の氷が溶けた気がした。なにか違和感を感じる。安心感を感じている。
「そうだ!僕の起こしたヘナチョコ談でもしましょう!」
ショコラは何か人を笑顔にする力でも持っているのか?
ーーさすがのダンテでも、アンティノメル以外には干渉できない。


そうこうしているうちに、アイスココアが届いた。
ああ、この見た目。少しパステルカラーに近い、それでいて香り高い、ほのかに苦いこのココア。
ダンテは最初に飲んだ時このココアが好きになった。
何だか、心が落ち着く気がしたからだ。
ショコラ王が居たからかも知れない。それでもダンテはこのココアが好きだ。
「それでですね。僕、一人で海を泳いでパッチングまで行ったことがあるんですよ!」
「なんだそれ!有り得ないだろ!お前の体力どうなってんだ!?」
互いは、ココアを飲みながら会話をしていた。
心が安らぐ。
…こんな体験した事がない。
心が安らぐとは、何だ?
心が落ち着くとは、何だ?
「心が安らぐとは何だ…」
頭を抱え、ダンテは言った。表情が苦しそうである。

「ダンテさん」
ショコラが心配そうに言い、ダンテは素に戻った。
「…心配しなくていい。俺は安心した事が無いからな…」
…ダンテには、安心というものがなかった。
人生で、安心して寝れたのは幼少期の頃だけだ。
最も幼少期は過度な期待、虐待からぐっすりと寝れる日は少なかった。
今も、いつヒーロー団体に捕まり閉じ込められるか分からない。
寝ている宿はボロ宿。しかも、廃墟となっている。
「俺に安心できる場所なんてない」
いつの間にかダンテの目からは、流したことのない、涙が出ていた。無意識に。

「ダンテさん、ドレスタニアで一旦休みますか?宿なら僕が貸しますよ!」
ダンテの悩みに、ショコラは対応出来なかった。
「…いい。 」
ダンテはぶっきらぼうに言い、アイスココアの氷ごと食べた。
「…お前の前だけだよ。俺が本音を出せるのは。」
精霊は目の前の、信頼している人物に話しかける。
今まで言えなかった、安心出来る場所がないという事。心を安らげるという事を知らない事。
それが、ショコラには言える。
…何故だろう。ドレスタニアにいると安心出来る。
こんな国に、平和に、生まれたかった。
もっと自由に、裏側なんて見ずに、気づかずに、家族に期待されずに、生きたかった…

 

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…ダンテはおいおいと泣いた。
今までに無いほど、泣いた。
ショコラは慌ててダンテを慰める。
緊急でアイスココアを再びオーダーした。何故かは分からないが、ダンテはココアを飲んで落ち着いたのだろう!という感が働いたのだ。
白と赤の龍は涙を零している。ほんとうは、辛かった。ほんとうは、誰かの温もりを感じたかった。
何か、自分のことを言える人物が欲しかった。
…殺される運命、その事は諦めたつもりだった。
このココアと、この明るい陽気な国王の前でなら話せる。ヴィランと国王、それは会ってはいけない組み合わせである筈だ。
ダンテは追加のアイスココアを飲む。…少し塩っぽいと思えば、それは自分の涙が入ったからである。
ダンテは隠したい負の感情を、出すものかと我慢すればする程出てしまうので、もうどうしようもなく泣いた。

ショコラは、あわあわとしながらも、ダンテが泣き終わるのを待っていた。


「…ありがとう」
泣き終わったダンテは、喫茶店から出て今回の誘いを感謝した。
「いえいえ!何かあったらまた来てくださいね!
僕達は歓迎しています!」
「…感謝する。」
ダンテはそう言うと宙に浮かび、そしてすぐ透明となり消えた。

…その後ショコラと出会いの握手をした。
ヴィランと国王。両者が仲良くするなど許されない。
だからダンテは、ヴィランではなく、精霊として握手をした。
何が起きたかとショコラは思っていたが、その後ショコラはのんびりと帰ることにした。


「…ココア、買って帰ろうかしら」
ダンテはポツリ、とショコラが消えた後の喫茶店前で呟いた。