SKY~ナツユのPFCSブログ~

なんちゅのPFCS用のブログです。かなりフリーダムです。

【腐向け注意】オレンジピール

ぼくからぼくへの贈り物

まだ寒いのに、この国ではもうサクラと呼ばれる花が咲いていた。バレンタインと呼ばれる習慣が近い。そんな中、ぼくはチョコレート屋にてチョコレートを頼んでいた。
チョコレート屋はバレンタインが近づいている事で、人混みに満ちている。
「ねえ、オレンジピールがたっぷり入ったチョコはあるかい?」
ぼくはいつもは市販の甘ったるいチョコレートが好きで、普段はこのような店で……ましては大人向けのチョコレートなんか頼まない。けど『彼』のために送ることにした。
「誰かに贈り物ですか? ルーカス様」
「ああ、ぼくの婚約者に送るんだ」
──ぼくは結婚しているものの、ぼくの婚約者など誰も知らない。
それもそのはず、公表してないし公表するわけにもいかなかった。いや、公表したらぼくの終わりだろう。だって──
「ならメッセージカードに名前を書きましょうか?」
「いやいやいいんだ。ぼくが手書きで送るからね」
相手は連続殺人鬼であり『ぼく』だからだ。

『おい、珍しいじゃねぇかルーカス。なんでそんなモン買ってんだよ』
帰る道の途中、脳内で会話が始まる。ぼくと彼の唯一の会話方法。
「だってあと数日でバレンタインデーだもん」
『ば……?』
彼……ジルはバレンタインデーを知らなかった。
「何処かの国から伝わってきた習慣らしくて、好きな人にチョコやクッキーとかを送る日らしいよ」
『へぇ……』
腕だけ、彼の意思で動かされる。ぼくは彼と丸々人格を交代することもできるし、一部だけ相手の意思で動かすこともできる。
ガサゴソとぼくの持っていた紙袋を漁り、ジルは乱暴に中身を取り出した。
『ん……オレンジピール
「うん、きみの好きな」
ジルが目覚めた後、差し入れで出されて食べたことがあるオレンジピールのチョコレート。ぼくは気に入らなかったが、ジルは──本来の身体はそれを気に入ったようだ。
『……お前、食えねえだろ、これ』
「きみのために買ったんだよ」
そういうと、腕の主導権がふらりとぼくに帰ってきた。

『さ、食べて』
「……」
身体をジルに渡す。目の前には、オレンジピール入りのチョコレートの箱。
「ルーカス……これ、気に入らねえんだろ……俺、嫌な顔するお前を見たくねぇからよ……」
『ぼくに気を使わなくてもいいじゃないか!』
ぼくはジルを愛している。だから、ぼくは我慢ができた。

思えばぼくとジルが恋に落ちたのは、数ヶ月前だった。
「ジル?」
眠れず、心臓の鼓動が早い身体。原因は、ジルにある。ぼくはなぜかそう思った。
『ッ ルーカス なんで、だよ』
「……?」
『なんでお前、そんな、俺に優しくすんだよ……。』
心臓が高鳴った。この身体は一心同体。ジルの精神からくる体調の変化は、すぐにぼくにも現れる。
『苦しい…… なんだこれ…… お前のことを思っちまっただけでよ……これだよ……』
「ジ、ジル……?落ち着いて……?」
ジルのこの言葉と、今の体調。察することは簡単だった。
「たぶんだけど、……あー、その、すっごい言いづらいけど……きみは……ぼくに恋してるんだよ」
『 ……恋……?まさか……俺がただ優しくされつづけた男に、ましてや俺に、恋するって思うか?』
「どこかの小説で読んだよ、水面の自分に恋した男の話」
『……だとしても、だ。俺は、ゲイじゃねぇ』
「そんなこと言ったらぼくもだよ。でも……きみは『ぼく』に恋したんだ」
『……。』
ぼくはやさしく抱きしめたかったが、できなかった。この身体は、ぼくとジル、二人のものだったからだ。
それが、ぼくとジルの、恋の始まりだった。

「あールーカス……どうせなら……お前が食って、俺に味わせてくれ」
『え、うん。いいよ』
ぼくとジルの魂の主導権が入れ替わる。ぼくはチョコレートの箱を開け、ぱく、と一口食べた。
ああ、やっぱぼく、この味はちょっと苦手だな。でも、ジルは喜んでいた。
苦手な味なのに大好物。そんな矛盾を抱えてぼくは、チョコレートを食べた。